展覧会概要
「何も言わず、目を閉じて、ただ細部だけが感情的意識のうちに浮かび上がってくる ようにすること」
――ロラン・バルト(『明るい部屋』より)
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「余韻/響き」展は、日本の若手美術作家3人の作品を通して、現代の写真表現の豊かな可能性の地平を再発見しようとする試みです。写真という、近代のユニバーサルな表現メディアにおいて、鑑賞者の心のうちに余韻を響かせるという日本的な芸術表現の特質を見出し、写真を新たな視点から捉え直すことを目指しています。「余韻」「響き」というキーワードを通して、現代の写真表現を新たな文脈から再考します。
古くは絵巻物、また近世の琳派の絵画など、伝統的に日本の絵画は「余白」や「省略」を巧みに生かした空間表現をひとつの特徴として発展してきました。すべてを詳細かつ説明的に描写するのではなく、見る者の想像力が入り込める隙間や空間を残すことにより、日本の伝統絵画はより豊潤な世界を提示しようとしていました。
世界最短の詩型といわれる「俳句」も、絵画における「省略」や「余白」と通じる美意識を特徴としています。「五・七・五」という切り詰められた音数の制限は、かえって鑑賞者の中に豊かなイメージを広げていく仕掛けを備えています。簡潔さを極めた言葉の外側に広がる情感の響きこそが、俳句鑑賞の特質と言えます。
「響き」や「余韻」を味わおうとするこのような美的感覚は、日本の現代美術のフィールドにおいても有効性を失ってはいませんが、とりわけ写真というメディアにおいて、特に興味深いかたちで継承され、展開されています。写真本来の主観を排した写実性は、俳句が標榜する「写生」の態度とも重なり、また世界をあるフレームで切り取るという行為は、17音の音律の中に言葉を収めるという俳句のルールにも通じるものがあります。
こうした制約を逆に積極的に生かし、広がりのあるイメージを響かせるような表現の可能性を意識し、追求している写真作家のうち、この展覧会では南條敏之、岡聖子、田中朝子という若手作家3人の作品を紹介します。彼らが生み出す作品は、それぞれ手法や方法論は異なりますが、日本の伝統的な美意識と写真という表現メディアとの関係性を探るうえで多くの示唆を与えてくれるでしょう。
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Gallery Hyun
http://www.hyungallery.com/