DEMADO PROJECTの第4回展示として、
川嶋久美によるインスタレーション「たまてばこ堂」を展示いたします。
熊本在住のアーティスト・川嶋久美は、インスタレーションやパフォーマンスなどを中心に精力的に発表を行っています。人間の「夢」や「記憶」、「思い出」のはかなさ、そしてそのはかなさゆえの愛おしさを、空想的かつ温もりのあるビジュアルで表現し、またあるときはサイトスペシフィック性やインタラクティブな手法も取り入れながら展開してきました。
今回、DEMADO PROJECTでは、川嶋が『浦島太郎』のお伽噺から着想した、観客参加型のインスタレーション「たまてばこ堂」を展示します。参加者は、これまでの自分の人生から「最高の思い出」をひとつ選び取り、その内容を誰にも明かさずに紙に記します。作家はそれを受け取り、オリジナルの「たまてばこ」にひとつひとつ封じ込めていきます。
こうしてつくられたたまてばこは、架空のお店「たまてばこ堂」のショーウィンドウに展示されます。参加者は、「思い出」を提供するかわりに、誰か他の人の思い出が入ったたまてばこを入手することができます(サイン、エディション入りのマルチプル作品として販売)。ただし、竜宮城の乙姫が浦島太郎に厳命したように、決して箱を開けることは許されません。誰かの最高の思い出を大切に守る役割を担うことになるのです。
「思い出」「記憶」とは一体何なのか? 同じ場所、同じ時間を共有したはずなのに、人それぞれにその感じ方、記憶の仕方は大きく異なります。「覚える」「思い出す」という行為そのものも、記憶のかたちを次々と変容させ、変質させていきます。思い出を紙に書き記すという行為自体が、ひとつの新たな「記憶」の「解釈」や「物語」を生み出すことに他なりませんが、私たちはそうした「よすが」に頼ることなしに「思い出」を「思い出す」ことはできないように思われます。
「たまてばこ堂」は、集団的記憶に対するメタファーであるとともに、私たちが普段当たり前に受け流している数々の美しい時間をもう一度見つめ直し、人生との向き合い方を再確認する機会を与えてくれることでしょう。